情報計数学科30周年記念誌


実習風景

元 (株)宇部電子計算センター 代表取締役専務
現 (株)
松永 茂夫


「センセイ デキマシタ」
「ヨシ ヤッテミルカ コントロールデーターヲカミテープリーダーニセットセエヤ」
「ハイ セットシマシタ」
コンソールのスタートボタンを押すとカタカタと心地好い 読み取り音が響きわたります。1秒間に120字読むスピードです。不安な顔をして じっと見つめている学生の顔。
「ヨシ、プログラムヲ、カミテープリーダーニセットセエヤ」
「セットシマシタ」
「ソリャア、カミテープガウラガワジャガ」
「スミマセン。セットシナオシマシタ」
「イマカラコンパイルヲスルケーノオ。コンパイルチュウモノハ、プログラムノキジュ ツガ、タダシイカドウカチェックスルノジャ。エエーカ、ロンリガタダシイカドウカヲ、チェックスルノジャアナイケエノー」
「???」
カチャカチャカチャと紙テープを読 む音と同時にラインプリンターにコンパイルシートが打ち出されます。何だか安堵の 目と不安な目とが入り交じった複雑な顔でラインプリンターを覗きこんでいる学生。 一瞬プリントの音がとまる。ホッっとした途端にジャジャジャッという音とともにエ ラーがリストされます。
「センセー マタエラーガアリマシタ」
「ドレドレ、DATAノスペルガDATEニナッチョルガ、DATEハカレシトスル ンジャ、コンピュータトハデイトハデキンノジャ、コンピュータハデータトスルン ジャ」
「シュウセイシテキーサン」
「ハイ」
どたどたと2階にある紙テープパンチマシン 室に行って紙テープを切ったり貼ったりしてまたコンパイルをしておりました。

当時のコンピュータは、漢字はありません。カタカナと英数字だけの表示でしたの でこんな会話が電算機室で行なわれていました。それはプログラム実習の授業でした。

昭和45年から私はプログラム実習を担当しておりました。当時は私の勤務してお りました宇部電子計算センターが工業計数科(現情報計数学科)の教室に同居しており、 宇部電子計算センターにありますFACOM 230-20を学生の実習用として提供 していた関係で非常勤講師として実習を担当したという経緯です。現在と違ってプロ グラムは紙テープにパンチしておりました。紙テープのパンチマシンの台数が足りな いので各人毎の使用時間を決めて実習の時間までにパンチするという状況でした。よ うやくコンパイルが完了するとデバッグを始めます。データのはいっている磁気テ ープが順調にオープンして処理が終ればいいのですが、一件読んだらもうクローズし てしまうというプログラムもあったり、集計を行なうのに1ページ毎に1行リストし 無限にラインプリンタからシートが打ち出され、驚いたり慌てたりしたものでした。 今度は論理をおっかけてプログラムミスを探したりして正しい答えが出たグループの 万歳の歓声を横目に、未完成グループはマシン室の床にコンパイルシートを拡げて呻吟 しておるといったまさに一喜一憂の実習風景でした。

現在のようにブラックボックスの多いコンピュータと違って、人間とコンピュータが 格闘しながら手作りの実習の世界は、作る苦しみと完成したときの感激を味わえるまこ とにもって人間的な時代のコンピュータであったと言えるのではないでしょうか。


宇部フロンティア大学短期大学部(旧 宇部短期大学)