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第九段  山科閑居の段

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daikyuu dan
底本の一部

(1996年1月14日現在)
¥T 第九 *
L9¥J地中キン¥¥/風雅{ふうが}でもなく。¥Jウ¥¥しやれでなく。¥Jハル¥¥しやうことなしの¥J中¥¥山/科{しな}に。¥Jウ¥¥由良「ノ」助が¥Jハル¥¥/侘住居{わびすまゐ}。¥Jウ¥¥/祗
園{ぎおん}の茶屋にきのふから雪の夜明し¥J中¥¥朝戻り。¥Jウ¥¥/牽頭{たいこ}中居に/送{おく}られて¥Jハル¥¥酒が。
ほたへる雪こかし¥Jウ¥¥雪はこけいて雪こかされ。¥Jフシ¥¥/仁体{じんたい}捨し遊びなり。¥J詞¥¥/旦那{だんな}申「シ」旦那。
お座敷「キ」の/景{けい}ようござりますお庭の/藪{やぶ}に雪持「ツ」て「ト」なつた所。とんと/絵{ゑ}にかいた
通「リ」。けうといじやないかのふお品。サア此景を見て。外へはどつちへもいきたうはござります
まいがな。ヘツ朝夕に見ればこそ有「レ」住吉の。/岸{きし}の向ひの/淡路{あはぢ}嶋山といふ事しらぬか。
/自慢{じまん}の庭でも内の酒は呑ぬ++。ヱヽ通らぬやつ++。サア++奥へ++¥J地ウ¥¥奥はどこにぞお/客{きやく}
が有「ル」と。¥Jハル¥¥先「キ」に立て¥J中¥¥飛石の。¥Jウ¥¥詞もしどろ足取「リ」も¥Jキンヲクリ¥¥しどろに。¥J中ハル¥¥見ゆる/酒機嫌{さかきげん}。¥Jウ¥¥お戻り
そふなと¥Jウ¥¥女房のお石が/軽{かる}う/汲{くん}で出る¥Jウ¥¥茶屋の茶よりも気の/端香{はなか}。¥Jウ¥¥お/寒{さむ}からふと
/悋気{りんき}せぬ詞の/塩{しほ}茶¥Jフシ¥¥/酔醒{ゑいさま}し。¥J地ハル¥¥一口呑「ン」で¥J色¥¥跡打明「ケ」。¥J詞¥¥ヱヽ奥/無粋{ぶすい}なぞや++。/折角{せつかく}/面白{おもしろ}ふ
/酔{ゑふ}た酒醒せとは。アヽヽアヽ降たる雪かな。¥J文弥詞¥¥いかに/余所{よそ}のわろ達「チ」が/嘸{さぞ}悋気とや見給ふらん。
¥J地上¥¥それ雪は打/綿{わた}に/似{に}て飛で中入「レ」と成¥J詞¥¥奥はかゝ様といへばとつと/世帯{せたい}/染{じむ}といへり。
¥J地ハル¥¥加賀の/二布{ふたの}へお見廻「イ」の¥Jナヲス詞¥¥/遅{おそ}いは御/用捨{ようしや}。/伊勢海老{いせゑび}と/盃{さかつき}。/穴{あな}の/稲荷{いなり}の玉/垣{がき}は。
/朱{あか}ふなければ/信{しん}がさめるといふ様な物かい。ヲイこれ++++。こぶら返りじや足の大/指{ゆび}折「ツ」
た++。おつとよし++。¥J地色ウ¥¥/次「イ」手にかうじやと¥Jハル¥¥足先「キ」で。¥J詞¥¥ア、これほたへさしやんすな/嗜{たしなま}しやんせ。
さゝが過「キ」るとたはゐがない。¥J地色ハル¥¥ほんに/世話{せわ}でござらふのと¥Jフシ¥¥物やはらかにあいしらふ。¥J地ハル¥¥力「キ」弥心得
奥より¥J色¥¥立出。¥J詞¥¥申「シ」++母人。親父様は/御寐{ぎよし}なつたか。¥J地ウ¥¥是上「ケ」られいと指出す親子が/所作{しよさ}
を¥Jハル¥¥/塗{ぬり}分「ケ」ても。¥Jウ¥¥下地は同し¥J中¥¥/桐枕{きりまくら}。¥Jウ¥¥ヲヽヲヽ/応{おう}は夢/現{うつゝ}。¥J詞¥¥イヤもふ皆いにやれ。ハイ++++。そんならば
旦那へ宜しう。¥J地ウ¥¥若旦那ちと¥Jハル¥¥御出を目遣ひで¥Jフシ¥¥いに/際{ぎは}わるう帰りける。¥J地ウ¥¥声聞へぬ
X行「キ」過させ。由良「ノ」助¥J色¥¥枕を上。¥J詞¥¥ヤア力弥。/遊興{ゆうけう}に事寄「セ」丸めた此雪/所存{しよぞん}有「ツ」ての
事じやが何と心得たぞ。ハツ雪と申「ス」物は。/降{ふる}時には少「シ」の風にもちり。/軽{かる}い身でご
ざりませう共。あのごとく/一致{いち}して丸まつた時は。/嶺{みね}の/雪吹{ふゞき}に/岩{いわ}をも/砕{くだ}く大
石/同然{どうぜん}。/重{おも}いは忠義。其重い忠義を思ひ丸めた雪も。/余{あま}り日数を/延{のべ}過「コ」し
てはと思召「シ」ての。イヤ++。由良助親子。原郷右衛門など四十七人連「ン」判の人「ン」数は。ナ皆主
なしの日かげ者。日かげにさへ置「ケ」ば/解{とけ}ぬ雪。せく事はないといふ事。爰は日/当{あた}り奥の
小庭へ入「レ」て置「ケ」。/蛍{ほたる}を/集{あつ}め雪を/積{つむ}も/学者{がくしや}の心/長{なが}き/例{ためし}。女共。切戸内から明「ケ」
てやりやれ。¥J地ウ¥¥/堺{さかい}への状/認{したゝ}めん。¥J詞¥¥/飛脚{ひきやく}が/来{き}たらばしらせいよ。アイ++¥J地ハル¥¥間「イ」の切「リ」戸のうち。
¥J中¥¥雪こかし込戸を¥Jハル¥¥立「ツ」る¥Jヲクリ¥¥/襖{ふすま}S引「キ」立入にける。¥J地ウ¥¥人の心の¥Jウ¥¥奥/深{ふか}き山科の隠れ家を。¥Jウ¥¥尋て
爰に¥Jハル¥¥くる人は。¥Jウ¥¥加古川本蔵行国が¥Jウ¥¥女房となせ。¥Jウ¥¥道の案内の乗「リ」物をかたへに待
せ¥J中¥¥只一「ト」人。¥Jウ¥¥刀/脇指{わきさし}¥Jウ¥¥さすがげに¥Jウ¥¥行義乱さず。¥Jハルフシ¥¥/庵{いほり}の戸口。¥J詞¥¥頼ませう。++といふ声に。¥J地¥¥/襷{たすき}はつし
て飛「ン」で出る。¥Jウ¥¥/昔{むかし}の/奏者{そうしや}今のりん。¥Jフシ¥¥どうれといふもつかふと成「ル」。¥J詞¥¥ハツ大星由良「ノ」助様お
宅は是かな。左様ならば加古川本蔵が女房となせでござります。誠に其後は打/絶{たへ}
ました。ちとお目にかゝりたい様子に付「キ」/遥{はる}々参りましたと。/伝{つたへ}られて下されと¥J地ハル¥¥いひ入さ
せて/表{おもて}の方。¥Jフシ¥¥乗「リ」物是へと/舁{かき}寄「セ」させ。¥J地ウ¥¥娘爰へと呼出せば。¥Jウキン¥¥谷の戸明「ケ」て¥Jウ¥¥/鴬{うぐひす}の
梅¥Jウ¥¥見付「ケ」たる¥Jウ¥¥ほゝ/笑顔{ゑがほ}¥Jウヲクリ¥¥まぶかに。/着{き}たる¥Jハル¥¥/帽子{ぼうし}の内。¥J詞¥¥アノ力弥様のお屋敷「キ」はもふ爰かへ。
¥Jフシ¥¥わしや恥しいと/媚{なまめ}かし。¥J地ウ¥¥取ちらす物片付「ケ」て。¥Jウ¥¥先「ツ」お通り¥Jハル¥¥なされませと。¥Jウ¥¥下女が/伝{つた}へる口上に。
¥J詞¥¥/駕{かご}の者皆帰れ。¥J地色ウ¥¥御/案内{あんない}頼ますといふもいそ++娘の小浪。¥Jフシ¥¥母に付「キ」/添{そひ}座に/直{なを}
れば。¥J地ハル¥¥お石しとやかに¥J色¥¥出向ひ。¥J詞¥¥是は++。お二「タ」方共ようそや御出。とくよりお目にもかゝる筈。
お聞及ひの今の身の上。¥J地ハル¥¥お尋に預「カ」りお恥しい。¥J中詞¥¥あの/改{あらた}まつたお詞。お目にかゝるは今「ン」日初
めなれど。先「キ」達「ツ」て御/子息{しそく}力弥殿に。娘小浪を/言号{いひなづけ}致したからは。お前也わたしなり。
¥J地色ル¥¥/R{あいやけ}/同士{とし}御/遠慮{ゑんりよ}に¥J色¥¥及はぬ事。¥J詞¥¥是は++/悼{いたみ}入「ル」御/挨拶{あいさつ}。殊に御用しげい本「ン」蔵様の奥
方。/寒空{さむそら}といひ思ひがけない御上京。となせ様はとも有「レ」小浪御/寮{りやう}。/嘸{さぞ}都/珎{めつ}らし
からふ。/祗園{ぎをん}清水/智恩院{ちおんいん}。大仏「ツ」様御らうじたか。/金閣寺{きんかくじ}/拝見{はいけん}あらばよい伝が有「ル」
ぞへと。¥J地色ハル¥¥と心置「キ」なき/挨拶{あいさつ}に。¥Jウ¥¥只あい++も口の内。¥Jフシ¥¥/帽子{ぼうし}まばゆき風情なり。¥J地ハル¥¥となせは行
義¥J色¥¥改めて。¥J詞¥¥今「ン」日参る事/余{よ}の義にあらず。是成「ル」娘小浪/言号{いひなづけ}致して/後「チ」。御主人
塩冶殿不/慮{りよ}の義に付「キ」。由良「ノ」助様。力弥殿。御在所もさだかならず。¥J地ウ¥¥/移{うつ}りかはるは世
のならひ。¥Jハル¥¥かはらぬは親心とやかくと¥J色¥¥聞「キ」合せ。¥J詞¥¥此山/科{しな}にござる由承はりました故。此方にも
/時分{じふん}の娘早うお渡し申「シ」たさ。近「カ」比押「シ」付「ケ」がましいが。夫「ト」も参る筈なれど出仕に/隙{ひま}の
ない身の上。此ニ「タ」/腰{こし}は夫「ト」が/魂{たましゐ}。是をさせば則「チ」夫本蔵が/名代{めうだい}と。わたしが役の二人前。由
良「ノ」助様にも御/意{ゐ}得まし。/祝言{しうけん}させて落付「キ」たい。¥J地ウ¥¥幸「イ」けふは¥Jハル¥¥日がらもよし。¥Jウ¥¥御/用意{ようゐ}¥Jウ¥¥なさ
れ¥J中フシ¥¥下さりませと¥Jハル¥¥相/述{のぶ}る。¥J詞¥¥是は思ひも寄「ラ」ぬ仰。折悪「ル」う夫「ト」由良「ノ」助は/他行{たぎやう}。去「リ」な
がら若「シ」/宿{やど}におりましてお目にかゝり申さふならば。御/深切{しんせつ}の段千「ン」万「ン」/忝{かたじけな}う存「ジ」まする。
/言号{いひなづけ}致した時は。/故{こ}殿様の御/恩{おん}に預り。御/知行{ちぎやう}/頂戴{てうたい}致し罷有「ル」故。本蔵様の娘御を
/貰{もらひ}ませう。然らばくれふと。/言{いひ}/約束{やくそく}は申たれ共。只今は浪人「ン」。人つかひ迚もござらぬ内へ。いか
に約束なれば迚。大/身{しん}な加古川殿の御/息女{そくちよ}。/世話{せわ}に申「ス」/挑灯{ちやうちん}に/釣鐘{つりがね}。釣「リ」合ぬはふ縁「ン」
のもと。ハテ/結納{たのみ}を遣はしたと申「ス」ではなし。どれへ成「リ」と外々へ。御/遠慮{ゑんりよ}なう遣はされませと
申さるゝでござりませうと。¥J地ハル¥¥聞てはつとは¥J中¥¥思ひながら。¥J詞¥¥アノまあお石様のおつしやる事。いかに
/卑下{ひげ}なされう迚。本蔵と由良「ノ」助様。/身上{しんしやう}が/釣{つり}合ぬとな。そんならば申「シ」ませう。
手前の主人「ン」は/小身{せうしん}故。/家老{からう}を/勤{つとむ}る本蔵は五百石。塩冶殿は大名。御家老の由良「ノ」
助様は千「ン」五百石。すりや本蔵が/知行{ちぎやう}とは。千「ン」石/違{ちが}ふを合点で/言号{いひなづけ}はなされぬか。只今
は御浪人「ン」。本蔵が知行とは皆違ふてから五百石。イヤ其お詞違ひまする。五百石は扨
置「キ」。一万「ン」石違ふても。心と心が釣「リ」あへば。大/身{しん}の娘でも嫁に取「ル」まい物でもない。ムヽこりや聞「キ」
所お石様。心と心が釣「リ」合ぬとおつしやるは。どの心じやサア聞ふ。主人塩冶判官様の御/生害{しやうがい}。
御/短慮{たんりよ}とは言ながら。正直「キ」を元「ト」とするお心より/発{おこり}し事。それに引「キ」かへ師直に金銀を以て¥Jウ¥¥/媚{こび}
/諂{へつら}ふ/追従{ついしやう}武士の/禄{ろく}を取「ル」本蔵殿と。/ニ君{じくん}に仕へぬ由良「ノ」助が大事の子に。¥J地ウ¥¥釣「リ」合ぬ
女房は持「タ」されぬと。¥Jハル¥¥聞もあへず¥J色¥¥/膝{ひざ}立「テ」直し。¥J詞¥¥/諂{へつら}ひ武士とは誰「レ」が事。様子によつては聞す
てられぬそこを/赦{ゆる}すが娘のかはひさ。夫「ト」に/負{まけ}るは女房の/常{つね}。¥J地色ウ¥¥/祝言{しうげん}有ふが¥Jハル¥¥有「ル」まい
が。¥Jウ¥¥言号有「ル」からは天下/晴{はれ}ての力弥が¥J色¥¥女房。¥J詞¥¥ムヽ/面白{おもしろ}い。女房ならば夫「ト」がさる。力「キ」弥にかはつ
て此母かさつた。¥J地ハル¥¥++と言/放{はな}し。¥Jウ¥¥心/隔{へだて}の唐紙を¥Jフシ¥¥はたと。引「キ」立入にける。¥J地ハル¥¥娘はわつと泣出し。
¥Jウ¥¥/折角{せつかく}思ひ思はれて¥Jウ¥¥言号した力弥様に。¥Jウ¥¥逢せてやろとのお詞を便「リ」に思ふて¥Jウ¥¥きた物
を。/姑御{しうとめご}のどうよくに。¥J詞¥¥さられる覚はわたしやない。¥J地ハル¥¥母様どふぞ¥Jウ¥¥/詫言{わびこと}して。¥J上¥¥祝言「ン」させて下
さりませと¥Jスヱ¥¥/縋{すが}り。歎けば¥J中¥¥母親は。¥Jウ¥¥娘の顔を¥Jハル¥¥つく※※と。¥Jウ¥¥打ながめ++。¥Jハル中¥¥親の/欲目{よくめ}かしらね共。¥Jウ¥¥本「ン」
にそなたの/器量{きりやう}¥J中¥¥なら。¥Jウ¥¥十人/並{なみ}にも¥Jウ¥¥まさつた娘。¥Jウ¥¥よい/聟{むこ}をがなと/詮義{せんぎ}して言号した
¥Jハル¥¥力弥殿。¥Jウ¥¥尋できた¥Jウ¥¥かいもなう。¥J上¥¥聟にしらさず¥J色¥¥さつたとは。¥Jハル¥¥義理にも¥Jウ¥¥いはれぬお石殿。¥Jウ¥¥/姑{しうとめ}去「リ」は¥J色¥¥心
得ぬ。¥J詞¥¥ムヽ++扨は浪人の身のよるべなう筋目を言立「テ」。/有徳{うとく}な町人の聟に成「ツ」て。義理も。法
も忘れたな。¥Jナフ¥¥小浪。今いふ通「リ」の男の/性根{しやうね}。さつたといふを/面当{つらあて}ほしがる所は山々。外へ嫁
入「リ」する気はないか。コレ大事の所泣「カ」ず共しつかりと返事/仕{し}や。¥J地ハル¥¥コレどふじや。¥Jウ¥¥++と。¥Jウ¥¥尋る親の気は
/張弓{はりゆみ}。¥Jウ¥¥アノ母様の/胴欲{とうよく}な事おつしやります。¥Jウ¥¥国を出る折とゝ様のおつしやつたは。¥J中ウ¥¥浪人「ン」し
ても大星力弥。¥Jウ¥¥行義といひ/器量{きりやう}といひ。¥Jハル¥¥仕合「セ」な聟を取「ツ」た。¥Jウ¥¥/貞女{ていぢよ}/両夫{りやうふ}に/今目{まみへ}ず。
¥Jサハリウ¥¥/譬{たとへ}夫「ト」に別れても又の夫「ト」を/設{もふけ}なよ。¥J中ウ¥¥主「シ」有「ル」女の不義同前「ン」。¥Jハル¥¥必々/寐覚{ねざめ}にも殿御
大事を¥J中¥¥忘るゝな。¥Jウ¥¥由良「ノ」助夫婦の¥Jハル¥¥衆へ/孝行{かう++}/尽{つく}し夫婦中。¥Jウ¥¥/睦{むつま}じい迚¥Jウ¥¥あしやらにも。¥Jウ¥¥/悋
気{りんき}ばしして¥Jナヲスフシ中¥¥さらるゝな。¥J地ウ¥¥/案{あん}ぜうか迚隠さずと¥Jウ¥¥/嬢妊{みもち}に成「ツ」たら¥Jハル¥¥/早速{さつそく}に。¥Jウ¥¥しらせて
くれとおつしやつたを¥Jウ¥¥わたしやよう覚て居る。¥Jウ¥¥/去{さら}れていんで¥Jウ¥¥とゝ様に¥Jウ¥¥/苦{く}に苦をかけて
¥Jウ¥¥どふいふてどふ/言訳{いひわけ}が¥Jウ¥¥有ふ共。¥Jハル¥¥力弥様より外に/余{よ}の殿御。¥J上¥¥わしやいや++と一「ト」筋に¥Jフシ¥¥恋を立「テ」
ぬく心根を。¥J地ハルサハリ¥¥聞に/絶{たへ}兼母親の。¥J中¥¥涙一「チ」/途{づ}に/突詰{つきつめ}し。¥Jウ¥¥/覚悟{かくこ}の刀¥Jハル¥¥抜「キ」/放{はな}せば。¥Jウ¥¥母親是は
何事と押「シ」とめられて顔を¥J中¥¥上。¥J詞¥¥何事とは/曲{きよく}がない。今もそなたがいふ通「リ」一時も早う/祝
言{しうげん}させ。/初{うゐ}孫の顔見たいと。娘に/甘{あま}いは/爺{てゝ}のならひ。¥J地ハル¥¥悦んでござる中へまだ祝言もせぬ先「キ」
に。¥Jウ¥¥/去{さら}れて戻りました迚¥Jウ¥¥どふ/連「レ」ていなれふぞ。¥Jウ¥¥といふて先「キ」に合点せにや¥J中フシノル¥¥仕様も。¥Jハル¥¥やうもな
いわいの。¥J地ハル¥¥殊にそなたは/先妻{せんさい}の子。¥Jウ¥¥わしとはなさぬ中じや故およそにしたかと思はれては。¥Jウ¥¥どふも
生「キ」ては¥Jウ¥¥居られぬ義理。¥Jウ¥¥此通「リ」を死「ン」だ跡で¥Jウ¥¥/爺御{てゝご}へ言訳¥J色¥¥してたもや。¥J詞¥¥アノ/勿体{もつたい}ない事おつしやり
ます。殿御に/嫌{きら}はれわたしこそ死「ス」べき筈。¥J地ハル¥¥生「キ」てお/世話{せわ}に成「ル」上に/苦{く}を見せまする¥Jウ¥¥ふ/孝{かう}
者。¥Jウ¥¥母様の手にかけて¥Jウ¥¥わたしを殺して下さりませ。¥Jウ¥¥去られても殿御の内¥Jウ¥¥爰で死れば本「ン」望じや。
¥Jウ¥¥早う殺して¥J色¥¥下さりませ。¥J詞¥¥ヲゝヲよういやつたでかしやつた。そなた計殺しはせぬ。此母も三「ン」/途{づ}の
/友{とも}。そなたをおれが手にかけて。母も追「ツ」付「ケ」跡から行「ク」。¥J地ハル¥¥/覚悟{かくご}はよいかと/立派{りつは}にも¥Jハル中ノル¥¥涙。とゞめて立かゝ
り。¥J詞¥¥コレ小浪。アレあれを/聞{き}きや。表「テ」に/虚無僧{こもそう}の尺八。/{つる}の/巣篭{すごもり}。¥J地ウ¥¥/鳥類{てうるい}でさへ子を思ふ
に¥Jハル¥¥/科{とが}もない¥Jウ¥¥子を手にかけるは。¥J上¥¥/因果{いんぐは}と¥Jウ¥¥因果の寄「リ」合と。¥Jウ¥¥思へば足も¥Jキン¥¥立兼て。¥J中¥¥ふるふ/拳{こぶし}を
¥Jハル¥¥/漸{やう++}に。¥Jウ¥¥ふり上「ク」る/刄{やいば}の下。/尋常{じんじやう}に座をしめ手を合せ。¥J詞¥¥なむあみだ仏と。¥J地ウ¥¥/唱{となふ}る中「チ」より¥Jハル¥¥御無用と。
¥Jウ¥¥声かけられて思はずも。¥Jウ¥¥たるみし/拳{こぶし}尺八も¥Jフシ¥¥倶に。ひつそとしづまりしが。¥J詞¥¥ヲヽそふじや。今
御無用ととゞめたは。/虚無僧{こもそう}の尺八よな。助「ケ」たいが山々で。無用といふに気おくれし。/未
練{みれん}なと笑はれな。¥J地色ハル¥¥娘/覚悟{かくご}はよいかやと又ふり上「ク」る¥Jウ¥¥又吹出す。¥Jウ¥¥とたんの/拍子{ひやうし}に又御無用。¥J詞¥¥ムゝ又
御無用と/止{とゞめ}たは。/修行者{しゆぎやうじや}の手の内か。ふり上た手の中「チ」か。イヤお刀の手の中「チ」御無用。C力弥に
/祝言{しうげん}させう。ヱヽそふいふ声はお石様。¥J地ハル¥¥そりや/真実{しんじつ}か誠かと尋る/襖{ふすま}の内よりも。¥J中ウタイ¥¥あひに/相生{あいおい}
の。松こそめでたかりけれと。¥J地ウ¥¥祝義の/小謡{こうたひ}¥Jウ¥¥白「ラ」木の/小四方{こしほう}。¥Jフシ¥¥目八分「ン」に/携{たつさへ}出。¥J詞¥¥義理有「ル」中の
一人「リ」娘。殺さふとX思ひ詰たとなせ様の心「ン」底。小浪殿の貞女。/志{こゝろざし}がいとをしささせにくい祝
言さす其かはり。世の/常{つね}ならぬ嫁の盃「キ」。¥J地色ハル¥¥請取「ル」は此三方。¥Jフシ¥¥御/用意{ようゐ}あらばと指置「ケ」ば。¥Jフシ地色ウ¥¥少「シ」は/休{やすま}つ
て¥Jハル¥¥抜「イ」たる刀¥J色¥¥/鞘{さや}に納め。¥J詞¥¥世の常ならぬ盃「キ」とは。引「キ」出物の御/所望{しよもう}ならん。此二「タ」腰は夫「ト」が/重代{ぢうだい}。
刀は正宗。/指添{さしぞへ}は浪の/平{ひら}行安。家にも身にもかへぬ/重宝{ちやうほう}。¥J地ハル¥¥是を引「キ」出と皆X¥J色¥¥言さず。¥J詞¥¥浪
人と/侮{あなどつ}て。/価{あたい}の高い二「タ」腰。まさかの時に売「リ」/払{はら}へといはぬ計の聟引「キ」出。御所望申「ス」は是
ではない。ムヽそんなら何が御所望ぞ。此三方へは加古川本蔵殿の。お首を乗「セ」て貰{もらひ}たい。ヱヽそ
りや又なぜな。御主人塩冶判官様。高「ノ」師直にお/恨{うらみ}有て。鎌倉殿で一「ト」刀に切かけ給ふ。其
時こなたの夫加古川本蔵。其座に有「ツ」て/抱留{いたきとめ}。殿を/支{さゝへ}た計「ツ」に御本望も/遂{とげ}られず。敵
は/漸{やう++}/薄{うす}手計「リ」。殿はやみ++御切「ツ」腹。口へこそ出し給はね。其時の御無念は。本蔵殿に/憎{にく}しみが
かゝるまいか。有まいか。家来の身として其加古川が娘。あんかんと女房に持様な力弥じや
と。思ふての祝言「ン」ならば。此三方へ本蔵殿のしらが首。いやと有「レ」ばどなたでも。首を/並{ならべ}る/尉{せう}と
/嫗{うば}。それ見た上で盃「キ」させう。サヽサアいやか。¥J地ハル¥¥/応{おう}かの/返答{へんたう}をと。¥Jウ¥¥/尖{すると}き詞の¥Jウ¥¥/理屈詰{りくつづめ}。¥Jウ¥¥親子ははつと
¥Jフシ中ハル¥¥/指喜{さしうつむき}/途方{とほう}に。くれし折からに。¥J詞¥¥加古川本蔵が首/進{しん}上申「ス」。お受「ケ」取なされよと。¥J地ウ¥¥表「テ」に/扣{ひかへ}し
/薦{こも}僧の。¥Jハル¥¥笠/脱{ぬぎ}捨てしつ++と¥Jウ¥¥内へはいるは。¥J詞¥¥ヤアお前はとゝ様。本蔵殿。¥J地色ハル¥¥爰へどふして此/形{なり}は。¥Jウ¥¥合
点がいかぬこりやどふじやと/咎{とがむ}る女房。¥J詞¥¥ヤアざは++と見ぐるしい。/始終{しゞう}の子細皆聞た。そち逹「チ」
にしらさず爰へ来た様子は追「ツ」て。先「ツ」だまれ。其元「ト」が由良「ノ」助殿御/内証{ないしやう}お石殿よな。今「ン」
日の/時宣{しぎ}かくあらんと思ひ。/妻子{さいし}にもしらせず。様子を/窺{うかゞ}ふ加古川本蔵。/案{あん}に/違{たが}はず
拙「ツ」者が首。聟引「キ」出にほしいとな。ハヽヽヽヽ。いやはやそりや侍「イ」のいふ事。主人「ン」の/怨{あた}を/報{むく}はんといふ/所
存{しよぞん}もなく。/遊興{ゆうけう}に/耽{ふけ}り大酒に/性根{しやうね}を乱し。/放埒{ほうらつ}成「ル」身持「テ」日本一のあほうの/鏡{かゞみ}。/蛙{かいる}
の子は蛙に成「ル」。親に/劣{おと}ぬ力弥めが大だはけ。うろたへ武士のなまくらはがね。此本蔵が首
は切「レ」ぬ。/馬鹿{ばか}/尽{つく}すなと/踏砕{ふみくだ}く。¥J地色ウ¥¥/破{われ}三方のふち/放{はな}れ。¥Jハル¥¥こつちから聟に¥Jウ¥¥取「ラ」ぬちよこざいな
女めと¥J色¥¥言せも果ず。¥J詞¥¥ヤア/過言{くはごん}なぞ本蔵殿。浪人の/錆{さび}刀切「レ」るか切「レ」ぬか/塩梅{あんばい}見せう。
/不詳{ふしやう}ながら由良「ノ」助が女房。¥J地ハル¥¥望む相「イ」手じやサア/勝負{しやうぶ}。¥Jウ¥¥++++と¥J中¥¥/裾{すそ}引「キ」上「ケ」。¥Jウ¥¥/長押{なげし}にかけ
たる/鑓{やり}追「ツ」取/突{つゝ}かゝらんず¥Jハル¥¥其/気色{けしき}。¥Jウ¥¥是は/短気{たんき}なマア待「ツ」てと¥Jウ¥¥とゞめ/隔{へだつ}る¥J色¥¥女房
娘。¥J詞¥¥/邪广{じやま}ひろぐなとあらけなく。右「キ」と左「リ」へ引/退{のく}る。間「イ」もあらせず/突{つき}かくる。鑓のしほ首
引「ツ」/掴{つかみ}。もぢつて/払{はら}へば身を/背{そむ}け。/諸足{もろあし}ぬはんとひらめかす。はむねをけつて/蹴{け}上れば。/拳{こぶし}
/放{はな}れて取落す。¥J地色ウ¥¥鑓/奪{うば}はれじと走「リ」寄。/腰際{こしぎは}/帯{おび}際¥Jハル¥¥引「ツ」/掴{つかみ}。どふど¥Jウ¥¥打付「ケ」/動{うご}かせず。
/膝{ひざ}にひつ敷「ク」/強気{がうき}の¥J色¥¥本蔵。¥Jウ¥¥しかれてお石が¥Jウ¥¥無念の¥Jハル¥¥/歯{は}がみ。¥Jウ¥¥親子ははあ++¥Jフシ¥¥あやぶむ
中へ。¥J地ハル¥¥かけ出る大星力弥。¥Jウ¥¥捨たる鑓を取「ル」手も見せず本蔵が。¥Jウ¥¥/馬手{めて}のあばら¥Jウ¥¥弓「ン」手へ通
れと/突{つき}通す。¥Jウ¥¥うんと計にかつぱとふす。¥Jウ¥¥コハ情なやと母娘¥Jスヱ¥¥取付。歎くに¥Jウ¥¥目もかけず。¥Jウ¥¥とゞ
めさゝんと¥J色¥¥取/直{なを}す。¥J詞¥¥ヤア待「テ」力弥早まるなと。¥J地ハル¥¥鑓引「キ」/留{とめ}て由良「ノ」助¥J色¥¥手/負{おひ}に向ひ。¥J詞¥¥一「チ」/別{べつ}
/以来{いらい}/珎{めづ}らしし本蔵殿。御/計略{けいりやく}の念「ン」願とゞき。聟力弥が手にかゝつて。/嘸{さぞ}本「ン」望でご
さらふのと。¥J地ウ¥¥星をさいたる¥Jハル¥¥大星が。¥Jウ¥¥詞に本蔵目を¥J中¥¥見/開{ひら}き。¥J詞¥¥主人の/欝憤{うつふん}を/晴{はら}さん
と此程の心づかひ。遊所の出合に気をゆるませ。/従党{ととう}の人数は/揃{そろ}ひつらん。思へば貴殿「ン」
の身の上は。本蔵が身に有べき筈。当春が岡/造営{さうゑい}の/砌{みきり}。主人/桃井{もゝのゐ}若狭
助。高師直に恥しめられ。以「テ」の外/憤{いきとを}り。某を/密{ひそか}に召「サ」れ。まつかう++の物語。明日御殿
にて出「ツ」くはせ。一「ト」刀に討「チ」留「ム」ると思ひ/詰{つめ}たる御/顔色{がんしよく}。¥J地ウ¥¥とめてもとまらぬ¥Jハル¥¥/若気{わかげ}の¥J色¥¥/短慮{たんりよ}。
¥J詞¥¥/小身{せうしん}故に師直に。/賄賂{まいない}/薄{うす}きを根に持「ツ」て。恥しめたると知「ツ」たる故。主人「ン」にしらせず
ふ/相応{さうおう}の金銀/衣服壱{ゐふくたい}の物。師直へ/持参{ぢさん}して。心に/染{そま}ぬ/諂{へつら}ひも主人を大事
と存るから。/賄賂{まいない}/課{おほ}せあつちから/誤{あやま}つて出た故に。切「ル」に切「ヲ」れぬ拍子ぬけ。主人「ン」が/恨{うらみ}
もさらりと/晴{はれ}。¥J地ハル¥¥相「イ」手かはつて塩冶殿の。¥J上¥¥難「ン」義となつたは則「チ」¥J中¥¥其日。¥J詞¥¥相「イ」手死ずば切「ツ」腹に
も及ぶまじと。抱とめたは思ひ/過{すご}した本蔵が。¥J地ハル¥¥一/生{しやう}の誤りは娘が難「ン」義と¥J上¥¥しらがの此
首。¥Jウ中フシ¥¥聟殿に。/進{しん}ぜたさ。¥J詞¥¥女房娘を先「キ」へ/登{のぼ}し。/媚{こび}/諂{へつ}ひしを身の/科{とが}にお/暇{いとま}を願ふてな。
道をかへてそち達「チ」より二日前に京/着{ちやく}。若「カ」い折「リ」の/遊芸{ゆうけい}が/益{やく}にたつた四日の内。こ
なたの所存「ン」を見ぬいた本蔵。手にかゝれば恨を/晴{はれ}。/約束{やくそく}の通「リ」此娘。¥J地ハル¥¥力弥に/添{そは}せて下
さらば¥Jウ¥¥/未来永劫{みらいゑうごう}御/恩{おん}は忘れぬ。¥J詞¥¥コレ手を合して頼入。¥J地色ハル¥¥忠義にならでは捨ぬ命。¥J上¥¥子故に捨「ツ」
る親心/推量{すいりやう}有「レ」由良殿といふも涙にむせ返れば。¥Jウ¥¥妻や娘は¥Jウ¥¥有「ル」にもあられず。¥Jウ¥¥本「ン」
にかうとは露しらず死おくれた¥Jウ¥¥計「ツ」に。¥Jウ¥¥お命捨「ツ」るはあんまりな。¥Jウ¥¥/冥加{めうが}の程が¥Jウ¥¥/恐{おそ}ろしい。
¥Jウ¥¥/赦{ゆる}して下され父上と¥Jスヱ¥¥かつぱとふして。¥J中¥¥泣さけぶ。¥J地ハル¥¥親子が心思ひやり。¥Jウ¥¥大星親子三人「ン」も。
¥Jフシ¥¥倶にしほれて居たりしが。¥J地ハル色¥¥ヤア++本蔵殿。¥J詞¥¥君「ン」子は其/罪{つみ}を/悪{にく}んで其人を悪「ク」まずと
いへば。/縁{ゑん}は縁/恨{うらみ}は恨と。/格別{かくべつ}の/沙汰{さた}も/有「ル」べきにと/嘸{さぞ}恨に思はれん。が/所詮{しよせん}此世を
去「ル」人。/底意{そこゐ}を明「ケ」て見せ申さんと。¥J地色ウ¥¥/未前{みせん}を/察{さつ}して/奥庭{おくには}の¥Jハル¥¥/障子{しやうじ}さらりと¥J色¥¥引「キ」明「ク」れば。
¥Jウ¥¥雪を/束{つかね}て/石塔{せきたう}の¥Jウ¥¥五/輪{りん}の/形{かたち}を¥Jハル¥¥二つX。¥Jウ¥¥/造{つくり}立「テ」しは大星が。¥Jフシ¥¥成「レ」行果を顕はせり¥J地色¥¥とな
せは¥J色¥¥さかしく。¥J詞ノリ¥¥ムヽ御主人の/怨{あた}を討「ツ」て後「チ」。二君「ン」に仕へず/消{きゆ}るといふお心のあの雪。力弥殿も
其心で娘を去「ツ」たのどうよくは。御ふ/便{びん}/余{あま}つてお石様。恨「ン」だがわしや悲しい。となせ様のお
つしやる事。玉/椿{つばき}の八千代X共/祝{いは}はれず。/御家{ごけ}に成「ル」嫁取た。¥J地上¥¥此様なめでたい¥J色¥¥悲しい。¥Jフシ¥¥事は
ない。¥J詞ノリ¥¥かういふ事がいやさに。むごうつらういふたのが。/嘸{さぞ}/憎{にく}かつたでござんしよなふ。イヽヱイナ。わたし
こそ腹立「ツ」まゝ。町人「ン」の聟に成「ツ」て義理も/法{ほう}も/忘{わす}れたかといふたのが。恥しいやら悲しい
やらどふも顔が上られぬお石様。となせ様。/氏{うぢ}も/器量{きりやう}も/勝{すく}れた子何として此様に。¥J地色ハル¥¥/果
報{くはほう}/拙{つたな}い¥J上¥¥生れやと¥Jフシハル中¥¥声も。涙に¥Jハル¥¥せき上る。¥J地ハル¥¥本蔵あつき涙をおさへ。¥Jウ色¥¥ハウアヽ嬉しや本「ン」蔵や。¥J詞¥¥/呉
王{ごわう}を/諫{いさ}めて/誅{ちう}せられ。/辱{はづかしめ}を笑ひし/呉子胥{ごししよ}が忠義は取「ル」に足{たら}ず。忠臣の/鑑{かゞみ}とは/唐
土{もろこし}の/予譲{よしやう}。日本の大星。昔より今に至るX。唐と日本にたつた二人「リ」。¥J地色ウ¥¥其一人「ン」を¥Jハル¥¥親に持「ツ」。¥Jウ¥¥力「キ」
弥が妻に成「ツ」たるは。/女御{にようこ}/更衣{かうゐ}に/備{そな}はるより。¥J上¥¥百/倍{はい}/勝{まさ}つてそちが身は¥Jウ¥¥武士の娘
の¥J色¥¥手/柄{がら}者。¥Jハル¥¥手柄な娘が聟殿へ。¥J中¥¥お引「キ」の/目録{もくろく}/進{しん}上と¥Jウ¥¥/懐中{くはいちう}より¥Jハル¥¥取出すを。¥Jウ¥¥力弥取「ツ」て
押「シ」/戴{いたゞき}/披{ひら}き見れば¥J色¥¥コハいかに。¥Jウ¥¥目録ならぬ師直が¥Jウ¥¥屋敷「キ」の案内一「チ」々に。¥Jウ¥¥/玄関{けんくはん}長「ガ」屋
/侍{さふらひ}部屋。¥Jウ¥¥水「イ」門物置「キ」/柴{しば}部屋X¥Jキン¥¥/絵図{ゑづ}にくはしく¥J色¥¥書「キ」付「ケ」たり。¥Jハル¥¥由良「ノ」助はつと¥J色¥¥押「シ」戴「キ」。
¥J詞¥¥ヘツヱ/有難{ありがた}し++。/従党{ととう}の人数は/揃{そろ}へ共。敵地の案「ン」内知「レ」ざる故/発足{ほつそく}も/延引{ゑんいん}せり。此絵図
こそは/孫呉{そんご}が/秘書{ひしよ}。我「カ」為の/六韜{りくとう}三「ン」/略{りやく}。¥J地色ウ¥¥兼て夜討と定めたれば。¥Jウ¥¥/継梯子{つぎはしご}にて/塀{へい}を
越「シ」¥Jウ¥¥忍び入には/椽側{ゑんかは}の。¥Jウ¥¥雨戸はづせば¥Jハル¥¥/直{すぐ}に居間。¥Jウ¥¥爰をしきつて¥Jウ¥¥かう/攻{せめ}てと¥Jフシ¥¥親子が悦び。
¥J地ウ¥¥手/負{おひ}ながらも¥Jハル色¥¥ぬからぬ本蔵。¥J詞ノリ¥¥イヤ++夫「レ」は/僻言{ひがこと}ならん。用心「ン」/厳{きび}しき高「ノ」師直。/障子{しやうじ}
/襖{ふすま}は皆/尻{しり}ざし。雨戸に/合栓{あいせん}合「イ」/枢{くろゝ}。こぢてははづれずかけやにて。こぼたば音「ト」して
/用意{ようゐ}せんかそれいかゞ。¥J地ウ¥¥ヲヽ夫「レ」にこそ¥J色¥¥/術{てだて}あれ。¥J詞ノリ¥¥/凝{こつ}ては/思案{しあん}にあたはずと/遊所{ゆうしよ}よりの帰る
さ。思ひ寄「ツ」たる/前栽{せんざい}の雪持「ツ」竹。雨戸をはずす我「カ」/工夫{くふう}¥J地ハルウ¥¥仕様を爰にて¥Jウ¥¥見せ申さん
と¥Jヲクリ中¥¥庭に。折しも雪ふかく¥Jウ¥¥さしもに/強{つよ}き¥Jウ¥¥大竹も¥Jトル¥¥雪の/重{おも}さに。ひいはりと¥Jウ¥¥しはりし竹を。引「キ」
廻して¥Jウ¥¥/鴨居{かもゐ}にはめ。¥J中キン¥¥雪にたはむは¥J色¥¥弓同然。¥J詞ノリ¥¥此ごとく弓を/拵{こしら}へ/弦{つる}を/張{はり}。鴨居と敷「キ」居に
はめ置「キ」て。一「チ」度に切て/放{はな}つ時は。¥J地色ハル¥¥まつ此様にと/積{つも}つたる¥Jウ¥¥枝打はらへば¥Jウ中キン¥¥雪ちつて。のびるは直成「ル」
¥Jハル¥¥竹の力。¥Jウ¥¥鴨居たはんでみぞはづれ。¥Jウ¥¥/障子{しやうし}残らずばた++++。¥Jウ¥¥本蔵/苦{くる}しさ打忘れハヽア
¥J色¥¥したり++。¥J詞¥¥/計略{けいりやく}といひ義心といひ。か程の家来を持ながら/了簡{れうけん}も有べきに。¥J地色ハル¥¥あさきたくみ
の塩冶殿。¥Jウ¥¥口おしき/行跡{ふるまひ}やと。¥Jウ¥¥悔を聞に御主人の御/短慮{たんりよ}成¥J上¥¥御/仕業{しわざ}。¥Jウ¥¥今の忠義を/戦
場{せんしやう}のお馬先「キ」にて¥Jウ¥¥/尽{つく}さばと。¥Jウ¥¥思へば無念「ン」に/閉{とぢ}ふさがる。¥Jウ¥¥胸は七/重{ゑ}の¥Jフシ¥¥門「ン」の戸を¥J中ハル¥¥/洩{もる}るは。¥Jハル¥¥涙計「リ」也。
¥J地ハル¥¥力弥はしづ++おり立て父が前に¥J色¥¥手をつかへ。¥J詞¥¥本蔵殿の寸「ン」/志{し}により。敵地の案内知「レ」たる上は。
/泉州堺{せんしうさかい}の天河屋儀平方へも/通達{つうだつ}し。/荷物{にもつ}の/工面{くめん}仕らんと聞もあへず何さ++。山
科に有「ル」事隠れなき由良「ノ」助。人「ン」数/集{あつ}めは人目有。一「ト」先「ツ」堺へ下つて後「チ」あれから直「ぐ」に/発
足{ほつそく}せん。其方は母嫁となせ殿諸共に。跡の片付「キ」諸事万「ン」事何もかも。心残りのなき
様に。ナ。ナ。コリヤ¥J地ウ¥¥あすの夜舟に下るべし。¥Jウ¥¥我は幸「イ」本蔵殿の忍び姿を¥Jノル¥¥我「カ」姿と。¥Jウ中¥¥けさ打かけて/編{あみ}
笠に。¥Jウ¥¥/恩{おん}を/戴{いたゞ}く/報謝{ほうしや}がへし/未来{みらい}の/迷{まよ}ひ/晴{はら}さん為。¥J詞¥¥/今宵{こよひ}一「チ」夜は嫁御/寮{りやう}へ。/舅{しうと}
が情のれんぼ¥J地色ハル¥¥流し。¥Jウ¥¥哥口しめして立出れば。¥Jウ¥¥兼て/覚悟{かくご}の¥Jウ¥¥お石が歎「キ」。¥J上¥¥御本「ン」望をと¥Jウ¥¥計「リ」にて
名残/惜{おし}さの¥Jウ¥¥山々をいはぬ心の¥Jフシ¥¥いぢらしさ。¥J地中ハル¥¥手/負{おひ}は今を/知死期{ちしご}時。¥Jウ¥¥とゝ様申「シ」とゝ様と
よべど。¥Jハル¥¥こたへぬだんまつま。¥Jウ¥¥親子の縁「ン」も¥Jウ¥¥玉の/緒{を}も切「レ」て¥J中¥¥一「ツ」世の。¥Jフシカヽリ¥¥うき別れ¥Jハル¥¥わつと泣「ク」母
泣「ク」娘。¥Jウ¥¥倶に/死骸{しかい}に向ひ地の。¥Jウ¥¥/回向{ゑかう}念仏は恋/無常{むじやう}。¥Jウ¥¥出行「ク」足も立とま
り。¥J合上¥¥六字の/御{み}名を/笛{ふへ}の音に。¥J詞¥¥なむあみだ仏。¥J地上ウ¥¥なむあみだ是や¥Jウ¥¥尺八ぼん
のふの¥Jハル¥¥枕ならぶる/追善供養{ついぜんくやう}。¥Jウ¥¥/閨{ねや}の/契りは一「ト」夜ぎり心。¥J中上¥¥残して。¥J三重上¥¥S立出る*

江木鶴子 Mail:egi@ube-c.ac.jp
前田桂子 Mail:maeda@frontier-u.jp