GUIについての実験的検討


宇都宮 鈴佳、大塚 久美子、川端 涼子、中田 麻衣、福田 佑香、堀田 紫織、山本 早織
(指導教員 吉田 信夫)


1.はじめに

 GUI(Graphical User Interface)とは、人間とコンピュータの インターフェイスであって、ウィンドウ、アイコン、メニュー等の グラフィック表示で操作画面を構成し、マウスと画面上のカーソル によってユーザの直感的な操作を支援するものである。私たちは、 昨年度に引き続き、GUIシステムを検討するための基礎的実験と して、人間がコンピュータを使用する際にディスプレイの表示色が どのように人間に影響を及ぼすかを調べるためるための実験を行っ た。昨年度は実験システムがUNIXのXlibを利用して作成さ れたが、私達は後に述べる理由により、Webアプリケーションを 利用した。具体的には、JAVAアプレットを使用し、ホームペー ジ上で実験ができるようにした。実験方法としては、次々とランダ ムに発生される500個の数値データを被験者にマウスで追跡しても らい、その経過時間を自動的に記録する形式を採った。実験当初は 100個の数値データによる実験にしてたが、100個では色の変化によ る影響がほとんど見られなかったので、500個のデータに増やし、 実験を行った。その結果、色が人間に及ぼす影響について、ひとつ の傾向が見られたので報告する。



2.目的

 私達がソフトウェアシステムを開発する際に、GUIシステムをより使い やすいものにすることも重要な要素である。そのためには、画面上に表示さ れるボタンやスイッチの大きさや色が、コンピュータを操作する人の反応や 疲労にどのように影響するかを知る必要がある。そこで私たちは、昨年度に 引き続き、そのための実験を行った。
 昨年度は、キーパッドの大きさがどのように影響を及ぼすかを調べること を目的として実験が行われたが、私たちは、ディスプレイの表示色がどのよ うに影響するかを調べることを目的とし、そのためのもっとも基礎的な実験 を行った。今回はゼミメンバーだけでなく、ホームページにアクセスしても らうことによって、他の人からも容易にデータが採取できるよう、Java を利用して実験システを作成した。



3.実験方法

 操作画面は第1図に示すように、1桁の乱数を表示する表示窓、8つの実験色の選択ボタン、0から9までの10個の数字キー、スタート時からの経過時間を、時:分:秒の形式で表示する表示窓、100回ごとにスタート時からの経過秒数を表示する5つの表示枠、そして、スタートボタンにより構成される。

第1図 操作画面

  8つの実験色としては、表1に示すような8つの色を使用した。
 括弧内の数値は左から順にRGB値を示す。
  実験の際の操作手順は次の手順による。
 @8色のうちのどれかのボタンを選択する。
 ASTARTボタンを押す。
 Bランダムに1桁の数字が発生され、表示されるので、表示された数字のボタンを押す。
 C数字は500回表示され、最後にEが表示されて実験を終了する。
 D乱数100回ごとの経過時間を実験データとして収録する。

 私達は乱数の表示色によって操作時間が変化すること、また、ある色では、最初は操作速度が速いが、操作回数が増すにつれて、被験者が疲れてきて遅くなる等の結果を期待して実験を始めた。実験当初は100回の数値で始めたが、100回では色の影響が全く生じなかったので500回に変更し、実験を行った。
今回は実験システムをJavaで作成し、ホームページ上で実験が行われる ようにした。実験システムの開発はLinuxで行い、データ採集実験は Windowsのインターネットエクスプローラーで行った。

色名

RGB値(Max:255

三属性値

近い色の色見本

色相 明度/彩度

JIS慣用色名

色相

彩度

明度

255

255

255

160

240

N−9.5

スノーホワイト

160

N−1.5

255

240

120

7R5/14

紅赤

255

160

240

120

9B4.5/9

セルリアンブルー

255

80

240

120

2.5G5/10

緑色・翠色

シアン

255

255

120

240

120

6B8/4

水色

255

255

200

240

120

3RP5/14

牡丹色

黄色

255

255

40

240

120

7Y8.5/10

カナリヤ色

表1 色名


4.実験システムの概要

全体

start( )メソッド
 ウィンドウの表示と同時にスタートさせる。


run( )メソッド




action( )メソッド



paint( )メソッド


乱数発生( )メソッド


描画消去色設定メソッド




描画色、描画フォント設定メソッド


時間描画色及び、描画フォント設定メソッド

update( )メソッド


stop( )メソッド



5.実験結果及び考察

 実験は本ゼミのメンバー7人が被験者となって行った。個々の被験者の 経過時間を図2、4、6、8、10、12、14のグラフに示し、それ ぞれのグラフの傾きを図3、5、7、9、11、13、15に示す。 7名の平均値を第16図に示し、その傾きの変化を第17図に示す。  第18図は、被験者7人の500回目の経過時間を、表示色をパラメータ にしてプロットしたものである。被験者によって色に対する反応はまちま ちであるが、傾きのグラフから経過時間のグラフがほぼ直線であることが 認められる。しかし、色による多少の影響が認められた。第18図の結果 は、私達の予測に反し、黒と白が一番速く、赤が一番遅くなっていた。  黄色の場合、他の色より反応が速い人と、遅い人に分かれた。シアンと赤、 白と黒、青と紫のグラフが近似していることが分かった。また、緑は全部 の被験者に対し、ほぼ共通に平均的な特性を示した。
 傾きのグラフからは、回数が進んだときの疲労の影響が読み取れるはずで あるが、例えば、特異的な影響を示した黄色では、7人中6人が500回 近くで傾きが上昇し、経過時間が長くなっている特性を示している。
最後に、実験後に被験者から得られた定性的な感想を列挙する。
 @  赤:見えにくかった(1人)
 A  黄:速くできた(5人) 遅くなった(2人)
 B  黒:見やすかった(3人)速くできた(2人)見えにくかった(1人)
 C  青:速くできた(1人) 遅くなった(1人)
 D  緑:速くできた(1人)
 Eシアン:見えにくかった(1人)
 F  白:なし
 G  紫:なし

第2図 被験者Aの経過時間
第3図 第2図の傾きの変化

第4図 被験者Bの経過時間
第5図 第4図の傾きの変化

第6図 被験者Cの経過時間
第7図 第6図の傾きの変化

第8図 被験者Dの経過時間
第9図 第8図の傾きの変化

第10図 被験者Eの経過時間
第11図 第10図の傾きの変化

第12図 被験者Fの経過時間
第13図 第12図の傾きの変化

第14図 被験者Gの経過時間
第15図 第14図の傾きの変化

第16図 経過時間の平均
第17図 第16図の傾きの変化

第18図



6.おわりに

 今回、私達はGUIのアイコンや文字の色がシステムの操作にどのように影響するかを調べるための基礎的データを採取し、初歩的な知見を得ることができた。今後、本実験システムの問題点を改良し、信頼性の高い実験結果を得たい。

実験システムなどの問題点 
 @ 1桁の乱数では連続して同じ数値が出ることが多々あり、操作速度に大きく影響するので、2桁の乱数とする方が望ましいと考えられる。
 A 表示数字の大きさと色を自由に変えられるように改良したい。また、バックグラウンドカラーを灰色(R:192 G:192 B:192)に固定しているが、これにも改良を加えたい。
 B 実験方法については測定と測定の間の休息の時間の影響を調べ、実験手順の確立を図らなければならない。また、500回の妥当性等も検討しなければならない。


7.参考図書

 戸川 隼人 著   ザ・Java −アプレットの作り方−  サイエンス社    1998年4月25日
 山下 関哉 著   図解でわかる Javaのすべて    日本実業出版社  2001年4月20日
 大谷 拓史
    +    著   はじめてのJAVA           技術評論社     1995年3月15日
 武藤 健志
 尚学図書 編集   色の手帖                小学館        1986年7月10日